~“指示力”が成果を決める時代。生成AIはマーケティングで生きる“優秀な部下”~

 最近、よく耳にするようになった言葉に「プロンプト」があります。ChatGPTのような生成AIを使う際に入力する文章、つまりAIに出す”指示文"のことを指しますが、「何を、どう聞くか」でAIの応答は大きく変わります。

 たとえば「イベントのアイデアを教えて」とだけ聞けば、漠然とした回答しか返ってきませんが、「30代女性向けの美容イベントで、平日の夜に実施できるものを3案考えて」と指示すれば、目的に応じた具体的な提案が返ってきます。つまり、AIは万能な魔法使いではなく、“優秀な部下”のような存在。使う側の力量、すなわち“指示力”が結果を大きく左右するのです。

これは、かつて私たちがPCやExcelを導入した時と似ています。最初は「何ができるか分からない」「専門的すぎて無理」と感じていたツールも、少しずつ使い方を学び、目的が明確になるにつれ、「便利」「なくてはならない存在」に変わっていきました。生成AIも、まさにこの段階にあります。

 ただし、AIはSiriやGoogleアシスタントのような“受け答えツール”として使うだけでは、もったいないのです。AIを使いこなすには、「どうすれば望む結果に近づけるか?」という発想が必要です。そしてその発想力を鍛えるうえで欠かせないのが、マーケティングの考え方なのです。

マーケティングとは、商品を売るためのテクニックではなく、「お客様の視点で価値を考え、提供する」ための基本姿勢です。どんなターゲットに、どんな価値を、どんな伝え方で届けるかを常に考える視点が、AIを使いこなすためのプロンプト設計にそのまま活きてきます。

たとえば、AIにチラシの文章を作らせるときも、「誰に向けてのチラシか」「何を伝えたいのか」「どんなトーンで書いてほしいか」などを明確にすることで、驚くほど精度の高い文章が得られます。これは、まさにマーケティング思考の応用です。

さらに言えば、生成AIは「仮説の立案」「選択肢の列挙」「アイデアの発想」「競合分析」など、マーケティング活動そのものの効率化に役立ちます。ただし、それらの機能を活かすには、「何を分析すべきか」「どんな軸で考えるべきか」というマーケティングの基本的な枠組みが頭の中にあることが前提となります。

時代とともに、マーケティングの定義は変わってきました。日本マーケティング協会も2024年、34年ぶりにその定義を刷新しました。新たな定義では、「(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」とされており、「価値共創」「社会との関係性」など、従来の“販売のための手段”という枠を超え、より広く深い意味での顧客志向が強調されています。まさに、AIを活用した顧客理解と価値提供の時代にふさわしい変化だと感じます。

また、マーケティングの考え方は、古典的な兵法にも通じるものがあります。たとえば「彼を知り己を知れば百戦あやうからず」という孫子の兵法の教え。これはまさに、マーケティングにおける市場分析(彼)と自社分析(己)を意味しており、十分な情報と戦略をもってすれば、無理のない勝負ができるという考え方です。生成AIは、この“彼と己を知る”ための極めて有効なツールなのです。

 私自身、中小企業の現場で経営者と伴走する中で、「マーケティングって難しそう」「AIなんてウチにはまだ早い」とおっしゃる方に何人も出会ってきました。でも、いざ一緒に考えてみると、「そういうことだったのか」と膝を打たれる瞬間が必ずあります。

大切なのは、知識ではなく“実感”です。マーケティングの知識やスキルを、単なる理論ではなく、実際のビジネス現場で役立つ実学と捉えられます。現代社会では、商品やサービスの提供、顧客とのコミュニケーション、そして企業戦略において、マーケティングの考え方は不可欠となっています。また実際にAIを使い、お客様との接点を意識しながら試行錯誤する中で、マーケティングもAIも“使える武器”として身についていくのです。

 当コンサルでは、こうした実践を通して、マーケティングをベースに、AIを恐れず・気負わずに使えるようになるお手伝いをしています。そして、AIという優秀な部下を活かす“指示力”を身につけることが、今後ますます求められていくでしょう。

AIを使いこなしたいなら、マーケティングを学ぶこと。逆に言えば、マーケティングを学べば、AIはもっとあなたの力になります。そんな時代が、もう始まっているのです。
丁寧に親切に伴走していきますので、遠慮なくお声がけください。