
「無識の指揮官は殺人者なり」
この言葉をご存知でしょうか?
明治の海軍軍人、秋山真之が海軍兵学校で残した教えだと言われています。
「無識の指揮官は殺人者なり」——。
これは単なる軍隊の規律の話ではありません。むしろ、経営者としてこの言葉を聞いたとき、私は背筋が凍るような思いを覚えました。
知識も戦略もないまま、人の上に立ち、組織を率いる。
その結果、社員の人生を狂わせ、会社を壊し、家族さえ不幸にすることがある。
これは“経営”という戦場において、実際に起こり得ることなのです。
覚悟を持つということ
秋山真之は、日露戦争において連合艦隊の作戦立案を任され、バルチック艦隊を撃破した人物です。
彼ら明治の先人たちは、精神論だけではなく、冷静に敵と自国を分析し、勝つための戦略と準備を整えて戦いに臨んだ。
私は、その姿勢に深く感銘を受けています。
そして中小企業経営者の皆さんにも、同じように「背負うべきもの」を自覚し、戦略と覚悟を持ってほしいと思っています。
経営者が背負っているのは、数字だけではありません。
会社という組織、従業員とその家族、自分自身の家庭。
そのすべての人生と生活を背中に負っているのが、経営者です。
戦えば勝てるわけではない
「一生懸命やっていれば、きっと道は開ける」とよく言います。
ですが、残念ながら現実はもっと残酷です。
努力だけで勝てるなら、倒産企業は存在しない。
誠実さだけで売上が伸びるなら、営業戦略はいらない。
「頑張っているから大丈夫」——これは、時にもっとも危険な自己暗示です。
経営においては、「努力」よりも「方向」が問われます。
誤った判断、ズレた優先順位、曖昧な意思決定は、組織に静かにダメージを与えます。
その結果、社員は疲弊し、顧客は離れ、気づいたときには打つ手がなくなるのです。
「無識」とは何か?
秋山真之が言う「無識」とは、単に知識がないという意味ではありません。
学ぶ意思を放棄し、自らの判断を過信すること、これが「無識」です。
経営者として、
- 数字を読めるか?
- 顧客を理解しているか?
- 社員の本音に気づいているか?
- 自社の立ち位置を冷静に把握しているか?
こうした問いに「なんとなく」「たぶん」「昔からこうしている」といった曖昧な答えしか持っていない場合、
もしかしたら私たちは“無識の指揮官”になっているかもしれません。
かく言う私も、プレイングマネージャーとして会社経営していた時代に「企画バカ」が過ぎて、
財務面を信頼していたブレーンに任せきりにして、致命的な失敗も経験しました。
守るべきクライアント、取引先、従業員とその家族、そして自身の家族など、
物心両面にわたる多大なる迷惑をかけてしまったことは痛恨の極みです。
「無識」では済まされないことを、身を持って知らされました。
背負っているのは誰かの未来
私は、伴走支援型コンサルタントとして中小企業の経営者とともに現場に立ち、
「汗をかきながら」一緒に悩み、考え、前に進む支援をしています。
その中でいつも感じるのは、経営者が本気で自らの“背負うもの”に向き合った瞬間、
会社の空気が変わり、社員の顔つきが変わるということです。
「社長、そこまで本気なら、自分ももう一度やってみようかな」
そう思わせるのが、リーダーの覚悟の力です。
秋山真之の「無識の指揮官は殺人者なり」という言葉は、今も私の胸に残っています。
私たちが背負っているのは、過去ではなく、未来です。
あなたがいま、背負っているものは何ですか?